この記事の目次
新生野球部の監督と部員の物語
以前テレビで、高校野球で情熱を燃やす先生を取り上げたドキュメンタリー番組がありました。
舞台は小さな島にある、過疎化が進んだ町にある高校です。この高校は過疎化による生徒減少により、以前あった野球部はずっと廃部状態でした。
そこへ、ある先生が新たに赴任し『もう一度、この高校に野球部を!』と部員を募集します。
奇跡的に10人くらい集まったものの、ほとんどが野球未経験者。それでも、先生は元高校球児でしたし、人数さえ集まれば野球はできます。
この先生が監督となり、小さな高校の新生野球部がスタートしました。
とまあ、大まかなあらすじはこんな感じです。
偶然テレビをつけたときにこの番組をやっていたので、私は思わず見入ってしまいました。
・高校野球に情熱を燃やす先生が監督となり、野球未経験者の部員を鍛え上げ、どのようなチームとなるのか?
・野球を通じ、部員達は何を掴み取るのか?
野球をやっていた方なら、興味をそそる内容ではないでしょうか?
守備練習での監督と部員のやりとり
守備練習をやっているときの出来事です。当然ノックを打っているのは監督。
守備練習終盤、ファーストを守っている子の動きが酷く緩慢になってきました。体力が無いためか、守備練習についていけない。
徐々に下を向き、うつむくことが多くなってきました。この子が野球未経験者なのは、動きを見ていれば明らかです。
それを見た監督は打球を打つのを止め、ファーストの子に声をかけます。
おい!疲れたのか?
はい・・・
じゃあ、あっちに行って休んでろ!
はい・・・
ファーストの子は背を向けながら、ファールゾーンにとぼとぼ歩いていきました。
それを見た監督がその子を呼び止め、強い口調でこう言いました。
おまえ!休むのかぁ?
・・・
おまえは試合中でも「疲れた」と言って休むのか?そんなことは出来ないんだぞ!
・・・
結局、ファーストの子は守備位置につき、練習に戻りました。
高校野球ではよくある光景
私も元高校球児ですので、こういった監督と選手のやりとりはよく知っているつもりです。
元高校球児としての模範解答を示すならば、以下のようになるでしょう。
おい!疲れたのか?
いえ、疲れていません!
じゃあ、もっと足を動かせ!
ハイッ!
元高校球児だった監督も、恐らくこのようなやりとりを期待したと思います。
こういった指導は必要なのか?
最初に書いたとおり、この野球部は未経験者の集まりです。果たして、このような指導は必要なのでしょうか?
私は、
こういった指導方法は使うチームを選ぶものであり、この野球部には必要ない!
と考えています。
例えば、ファーストが何人かおり、誰もがレギュラーを狙って競っている場合。これは良いと思います。
『疲れた・・・』と言って休んだとしても、他の選手は練習をし続けます。その間に、ライバルは上達してレギュラーの座を掴み取るかもしれません。
そういったことを認識させつつ、練習するかしないかを選手に選択させるわけです。(まぁ、選手からすれば練習するしかないと思うかもしれませんが・・・)
もちろん、圧倒的な実力差があり『俺がレギュラーだ!』などと思い上がり、多少練習をサボってもいいと考えているなら、ばっさりレギュラーを剥奪すべきです。
それに対し、この野球部の場合は、そういった理屈は当てはまりません。みんな野球未経験者なうえ、各ポジションに1名しかつけないような状況です。
ライバルに勝ってレギュラーを掴み取るという発想など無くて当然なんですよね。そもそも足の動きが止まり、うつむき加減になった理由は体力不足が原因です。
こんな風に煽っても、這い蹲ってでも倒したいライバルがいる訳でもないですから、全く無意味だと思いますね。
高校野球ごっこは止めて欲しい!
一応言っておきますけど、向上心があるとかないとか、そんなことが言いたいわけじゃないんですよ。
そのチーム、その選手にあった指導方法や選手を舞妓する方法ってあると思うんです。
この野球部で言えば、野球というスポーツをやる上で必要な動作を教え、最初は出来なかったことが、小さな努力を重ねて上達する喜びを選手に知ってもらう方が先決です。
ライバルに勝つとか、相手チームに勝つとか、そんなことは次の段階の話です。初心者が集まった野球部には無駄な煽りは不必要です。
この監督のように無差別に選手を煽ってしまう人って、ただ単に高校野球ごっこがやりたいだけなんですよ。
こういう人に限って、生徒が3年生になって部活を引退するとき『よく耐え抜いた!この経験は社会に出て絶対に役立つぞ!』と感動のセリフを口にします。
本当にそうお考えですか?
部員はただただ恫喝に耐えただけですよ?
部員にスポーツの素晴らしさを教えることは出来たのでしょうか?
指導者の役割を考えさせられた番組だった・・・
野球に限らず、どんなスポーツや仕事でもレベルや能力に応じて、人が持っている課題は様々です。
・その課題をいかに克服するか?
・克服するためにどのような努力をしたのか?
選手は色々模索して、努力し、苦悩するでしょう。
その結果、課題を克服すれば成功体験として人生の糧になり自信なります。そのとき指導者はうんと褒めてやればよい。
逆に、努力が報われず課題を克服できないこともあるでしょう。
そんなときは、努力が足りなかったのか、努力の仕方が悪かったのか、悩みを聞いたりアドバイスしてあげればよい。
このように、課題に立ち向かえる選手は指導のやりがいもあるし楽なんです。
難しいのは目の前の課題に立ち向かえず、目を逸らす選手です。
特に初心者なんて課題だらけで当たり前ですし、何が課題か理解出来ないことも多いでしょう。
指導者は何を理解していないか分析し、課題を分かりやすく教え、課題に向き合える人間に育てることをやらなくてはいけません。
最初は簡単な課題でも良いので、クリアすれば褒めてあげる。
徐々に高いハードルを課し、自然と課題に向き合うように仕向ける。
もちろんゴールは選手自ら課題を見つけ、自ら克服するために行動することです。これは非常に根気が必要で、指導者にとって大変なことです。
でも、学生スポーツの原点ってこういうことだと思うんですよね。高校野球に限らず、こういったことを省いて、厳しく練習させることは指導者のエゴです。
最初、私はこのドキュメンタリー番組を楽しく見ていましたが、同時に指導者の役割を考えさせられた番組であり、今でも印象に残っています。