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指導者の言葉は重い
スポーツの監督やコーチの言葉に対し選手は敏感です。選手は監督やコーチに評価されないと試合に出ることができませんからね。
そんな監督やコーチの言葉は重く、何気ない一言でも選手のプレーに影響を及ぼすことがあるのです。もちろん悪い影響だけでなく、良い影響を与えることもあります。
今回の記事は、私が高校球児のとき、野球部の監督にかけられた言葉で奮い立ったお話をご紹介します。
大会前ミーティングでいきなりディスられた私・・・
私が高校2年の4月。私はその前の年からキャッチャーのレギュラーを掴んでいました。
春季大会を控えた野球部は校舎の一室でミーティングを行いました。背番号渡し、ベンチ入りメンバーの発表、この大会での目標や戦い方の再確認が主な内容です。
一連の流れを終えた後、静かに監督がしゃべりだしました。
正直言って、今の”ryo”ではほとんど盗塁は刺せないだろう・・・
えっ!このタイミングで俺がディスられんの?
いきなり自分の話題、それもネガティブな指摘をされることは予想外であり、私は少々驚きました。
正直に言えば、全く心当たりが無いわけではなかったです。
ただ、練習中に言えばいいことを『なぜミーティングで指摘したのか?』それが理解出来ませんでした。
強豪高校にボコボコにされたチームと私
私の高校では毎年春休みに『関東遠征』を行います。期間は約1週間。そこそこ強い高校に胸を貸してもらい、一冬越えたチーム・選手がどれくらい成長したのかを試すんですよ。
この年も毎日違う高校と対戦し、勝ったり負けたりしながらも、それなりに手ごたえを感じながら日程を消化していました。
そして迎えた最終戦。この年の関東遠征で最も強い高校が相手で、結果は『18-0』という大敗・・・
当時、私の高校は県内で『優勝候補』と評される程ではないにしろ、ダークホース的な存在と認知されていましたし、事実、優勝候補の高校を練習試合で破ることもありました。
この年の関東遠征でも県外の強いチームと接戦になることが多かったですし、選手はそれなりに力がついてきたと感じていました。
しかし、結果は18-0・・・ さらにスコア以上の実力差を監督・コーチ・選手は感じた試合でした。
実力差を象徴していのが、キャッチャーだった私が盗塁され放題だったこと。試合中盤から後半にかけてはフリーパス状態で10個以上は盗塁を許すありさまでした。
もちろん、盗塁を防ぐのはキャッチャーだけでなくピッチャーのフォローも必要です。事実、ピッチャーのクセを完全に見抜かれていましたし。
それでも私のスローイングは強豪校には通用していませんでしたし、バッテリー全体としてスキルアップの必要性を認識させられた試合でした。
課題を抱えた状態で迎える春季大会
圧倒的な実力差を見せつけられた関東遠征後、すぐにチームや選手は課題克服のため練習に打ち込みます。それは私も同じ。
ちょうどこの時期、キャッチャー出身のコーチが新しくチームに加わり、私は色々と技術的なことを教わりました。
ちなみに監督はノンプロでピッチャーだった方なので、キャッチャーの細かな技術は知らなかったんですよね。
毎日、バッティング練習以外はファールグラウンドでコーチとスローイングの練習。
そんな日が続きますが、春季大会は目の前です。まだまだ課題を克服したとは言えない状態でした。
私を奮い立たせた監督の言葉
このような状況で迎えた大会前のミーティングでしたので、私の盗塁阻止能力について『チームの懸案事項』という考えがあったのでしょう。
だから監督が、
正直言って、今の”ryo”ではほとんど盗塁は刺せないだろう・・・
と言ったのも理解できないわけではなかったのです。
その後、監督はこう続けました。
この大会では相手の盗塁に対し、ほぼフリーパスになる可能性もあるからな。投手は牽制球を徹底し、ランナーのスタートを遅らせるように!
ちなみに春季大会、初戦で対戦する高校は長打力はないものの、足を絡めてくるチームでした。
関東遠征以来、コーチとともにスローイングの練習を重ねていました私でしたが、自信が芽生える程ではありませんでしたので、若干憂鬱な気持ちになっていました。
しかし、監督の最後の言葉で私の気持ちが変わりました。
だがこれだけは言っておく!
この大会には間に合わないが”ryo”は徐々に上達している。
だから、コイツがまぐれでも盗塁を刺したら、ベンチや野手は思いっきり盛り上がってやれ!
何かを成し遂げ、褒められたわけではありません。
でも課題を克服する努力を認められること、僅かな成果でも期待してくれることは選手にとって何より嬉しいものなんです。
私はこの瞬間、監督がミーティングで私のスローイングに触れた意図を理解しました。だからこそ私心ににあった不安感や憂鬱といった後ろ向きな考えは消え去り、奮い立つように前を向くことができたのです。
初戦の初回、いきなり盗塁を仕掛けられた結果
春季大会の一回戦。先発投手の立ち上がりを相手に攻められ、初回に二死一三塁のピンチを迎えました。
守備側にとって一三塁は守り方が難しく、それは盗塁の場合も同様です。
一塁ランナーの盗塁に対し安易に二塁へ送球すれば、ダブルスチールにより三塁ランナーが本塁を狙ってきます。
逆に、ダブルスチールを怖がってしまい一塁ランナーに簡単に盗塁を許すのも良くありません。同じような状況になると、相手はどんどん走ってくるようになるからです。
この難しい状況の中、予想通り一塁ランナーがスタートを切りました。とにかく強い送球を心がけて投げた私のボールは、イメージした軌道で二塁ベース上へ向かいます。
ダブルスチールに備えてカットに入ろうとしたセカンドは、ショートの指示により送球をスルー。そしてベースカバーに入ったショートが私の送球を捕球し悠々とランナーにタッチ、一塁ランナーの盗塁を阻止しました。
チェンジになりベンチに戻ると、ベンチやスタンドは大盛り上がり。そんな中、監督が大きな声で
よ~し!!! よくやったぞ!!!
と声をかけてくれました。
私が野球を、いやスポーツをやっていて良かったと思える瞬間でした。
完璧に打ったホームランや、接戦を制する逆転打、勝ち越し打を打ったときも嬉しいですが、そういった場面とはまた違った嬉しさがあるんです。
ちなみにこの試合、相手チームは合計3回盗塁を試みましたが、私は全部アウトにしました。
同じ技量を持った選手でも、後ろ向きの考えと前向きの考えでは発揮できる力も変わってきます。
もちろん選手自身も頭を整理し、練習で自信を深めつつ、前向きな状態で本番に挑む必要があるでしょう。
それとは別に、今回のケースのように監督からの言葉により、前向きに捉えて試合に挑むことができる場合もあるのです。監督に限らず、コーチやチームメイトの言葉でも勇気をもらうこともあるでしょう。
そういったことを含めチームワークなんでしょうね。