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落合博満と王貞治
野球ファンなら落合博満さんと王貞治さんのことを知らない人はいないと思います。
現役時代のプレーを見たことが無い人でも、プロ野球屈指の実績を残していることを知っている人は多いですからね。
一応、現役時代の実績を簡単に振り返りましょう。
落合博満(ロッテ→中日→巨人→日ハム)
2236試合、2371安打、510本塁打、1564打点。
通算打率.311、通算OPS .987
首位打者5回、本塁打王5回、打点王5回
NPB史上唯一、3度の三冠王を達成。
王貞治(巨人)
2831試合、2786安打、868本塁打、2170打点。
通算打率.301、通算OPS 1.080
首位打者5回、本塁打王15回、打点王13回
三冠王を2度達成。
凄まじい実績ですよね。特に王さんの868本塁打は、20シーズン連続40本打ったとしても到達できない数字です。まさに不滅の記録でしょう。
落合さんもプロ入りが遅いにも関わらず(ロッテがドラフトで指名したとき、すでに25歳)、非常に高い通算成績を残していますし、3度の三冠王はプロ野球史上落合さんだけですし。
NPB史上最高の左打者が王、最高の右打者が落合と言われることが多いのもうなずけますね。
落合から見た王とは?
落合さんは著書・プロフェッショナルでこのように書いています。
長嶋さんは少年時代から憧れの的であり、私と野球を引き寄せてくれた恩人であると言っても過言ではない。
一方の王さんは、プロ野球の世界に身を置き、ある程度の成功を収めた私に対して、一流選手として、男として、また一人の人間として歩むべき道、そしてその歩み方を教えて下さった「生きたお手本」である。
<引用>
書籍名『プロフェッショナル』、著者・落合博満、出版社・株式会社ベースボール・マガジン社
プロ野球の超スーパースターだった長嶋・王は落合さんにとっても特別な存在だったんですね。
落合さんが現役引退した年(1998年)、王さんはダイエーの監督を務めていました。落合さんが唯一引退決意を報告した人が王さんだと述べています。
憧れの長嶋さんと同じユニフォームを着ることができ、引き際には王さんから温かい言葉をもらえた私は、野球人としてとても幸せな時間を過ごして来れたと実感した。
<引用>
書籍名『プロフェッショナル』、著者・落合博満、出版社・株式会社ベースボール・マガジン社
ドリームキラーだった落合博満
ドリームキラーとは
ドリームキラーとは、他人の夢を壊そうとしたり邪魔をしてくるような人のことです。
しかしドリームキラーだからといって、必ず悪意があるわけではありません。良かれと思ってアドバイスしたつもりが、結果的に相手の夢や目標を壊す場合もあるからです。
発言の意図と異なる受け取り方をされる場合もありますし、ドリームキラーが必ずしも悪意をもっているとは限らないんですね。
落合が「練習していない」と言う理由
落合さんが現役のとき、どれだけ練習していても『練習なんかしてないよ』『酒飲んで寝るだけ』とはぐらかすことが多かったです。
ポコッと出たお腹、30歳代とは思えないふてぶてしい態度も相まって『落合は練習しない』と信じた人は多かったと思います。
それでいて球界を代表する成績を残すんですから、誰しもが天才だと思ったことでしょう。
しかし実際は違いました。落合さんは誰よりも練習していたのです。それは落合さんの著書を読めばよく分かります。
まさに生活の全てを野球に捧げ、誰よりもバットを振っていたのが落合さんの本当の姿。
それなのに、なぜ『練習していない』と言い続けていたのでしょうか?
その答えは著書に書かれています。
私は決して練習をしなかったわけではない。むしろ他の選手の何倍もバットを振ってきたことは、これまでに何度か書いてきたと思う。だが同時に、どんな練習をどれくらいやっているのかなどということは、ファンやメディアに対して語る必要もないものだと認識していた。加えて、自分のためにしている鍛錬は「必要なこと」であって「練習」ではないととらえていたから、練習に関する質問を受けても「してないよ」と答えていたのだ。
<引用>
書籍名『プロフェッショナル』、著者・落合博満、出版社・株式会社ベースボール・マガジン社
落合がドリームキラーだった理由
プロ野球選手として落合さんの考えはよく分かりますし、プロは試合で結果を出してナンボですからね。
そして『落合は天才だ!』と誰しもが思った。しかし、その反面『凡人が努力するのがバカらしい』と誤解させてしまいましたし、事実、私を含めた当時の子供はみんなそう感じていた。
だからこそ落合さんは悪意のない『善意のドリームキラー』になってしまったのです。
落合を諭した王の言葉
そんな落合さんの『練習していない』というセリフは王さんの耳にも入っていました。そしてある日、王さんが落合さんを諭します。
技術的なことから精神面のことまで、多くの勉強をさせてもらったと感じているが、最も記憶に残っているのは、次のひと言である。
「落合君、自分は練習をしないということは対外的に言わない方がいい」
<引用>
書籍名『プロフェッショナル』、著者・落合博満、出版社・株式会社ベースボール・マガジン社
落合さんの考えは先ほどお話した通りです。
落合さんには落合さんなりの考えがあった。しかし・・・
ところが、このことについて、王さんは次のように言った。
「そういう君の気持ちは十分理解できるし、プロ野球は君が表現している通りの世界だが、世の中はプロ野球界や落合君のことをよく知っている人ばかりじゃないんだ。そんな人達が君の発言を聞いたらどう感じるか。僕は、君が損をするだけだと思う。それに、落合君の言葉は若い選手やプロ野球を夢見る少年たちが、野球の世界で頂点にいる者の言葉として受け止めるんだ。練習しなくても一流になれると勘違いされては、マイナスしかないだろう」
長い間、プロ野球界のみならず、日本の国民から注目され続けた人の忠告は重かった。
<引用>
書籍名『プロフェッショナル』、著者・落合博満、出版社・株式会社ベースボール・マガジン社
こういったことを言えるのが、王さんが人格者と言われる所以ですね。
別に落合さんが悪いわけじゃないんですが、プロ野球、いや野球界全体を考えて行動すべしという考えは素晴らしいですからね。
このとき落合さんはすでに3度の三冠王を達成しており、年俸の球界トップ。名実ともに当時頂点にいた落合さんに忠告できる人なんてほとんどいませんからね。
それからの私は、王さんのような人格者には程遠いかもしれないが、野球が自分にとってかけがえのないものであり、素晴らしいものであるということはプレーを通じて、また現在は、このような場を借りて表現していると思っている。
<引用>
書籍名『プロフェッショナル』、著者・落合博満、出版社・株式会社ベースボール・マガジン社
落合さんが中日の監督になり、当時12球団一練習が厳しいと言われ、落合さんもしきりに『練習しなきゃ上手くならない』と、練習の大切さを語っていました。
事情を知らない人は、
落合は現役時代たいして練習しなかったくせに、監督になったら選手に練習を強要している
なんて言ったりしていましたが、実際は全然違うんですよね。
落合博満の本は読む価値あり
こういった超一流選手のエピソードは面白いですよね。
3度の三冠王、球界一の年俸をもらっている選手に、野球界の将来を考えて忠告する王さんはやっぱり凄い。
同時に、天狗になってもおかしくない実績を誇りながら、好いものは好い、悪いものは悪いと、忠告を受け入れる落合さんもさすがです。
落合さんは色々誤解されることが多い人ですが、野球に関する造詣は非常に深い。
私が初めて買ったプロ野球選手の本が、たまたま落合さんの本だったのですが、その内容の深さに驚きました。プロ野球選手はここまで考えて野球をするのかと。
私はその後、プロ野球選手が書いた本を色々読みましたが、落合さんのような深い内容の本は意外と少ないんですよ。
プロ野球選手が書く本って、アマチュア時代のことから、プロ野球で体験したことなどが書かれていることが多いんですよ。
もちろんファンなら楽しめますが、そのほとんどは一回読めば十分なんです。
それに対し落合さんの本はアマチュア選手にも参考になることが多く、何度も読み返す価値があるんです。
この記事では紹介しきれませんが、また機会があればご紹介したいと思います。