私は以前、『アパート一括借り上げ』を売り文句にする業者と交渉したことがあります。
親戚が業者から話を持ちかけられて、私に相談があったためです。
交渉期間は半年以上に及びました。
なぜ私自身、利害が無いのに交渉役を担当したのか?
親戚に信頼された上で、お願いされたこともありますが、それ以上に私自身が賃貸経営のことを全く知らなかったので、賃貸経営の仕組みを学びたかったからです。
賃貸経営って聞くと、人が住む場所を提供するだけですので、簡単そうですよね。
でも利益を上げるために、どんなファクターがあるのか、抑えておくべきポイントはあるはずです。
折角の機会なので、ネットや書籍でなく、直接業者から情報を得ようと思った訳です。
なぜ、こんなことを記事にしようと思ったかと言うと、少し前に『アパート一括借り上げ訴訟』の記事をネットで目にしたからです。
オーナーが予定していた賃料を下げられた!と訴えていたと記憶しています。
私自身はこの『アパート一括借り上げ』のシステムには反対的な立場です。
交渉を通じて、内容を理解し、この結論に至りましたが、今一度考え方をまとめておきたいと思います。
上に書きましたが、私はこのシステムに対し反対ですが、人によっては有益になるケースもあります。その辺も書き記しておきたいと思います。
もし、今後または将来的に『アパート一括借り上げ』システムを利用してみたい方は、リスクを十分に理解した上で進めることをお勧めします。
アパート一括借り上げの仕組み
一括借り上げとは、オーナーが所有するアパートを業者が借り上げ、業者が入居者を募集したり、アパートの管理を行います。
業者は空室や家賃滞納があっても、毎月一定額を家賃保証という形でオーナーに支払います。
オーナーからすれば、空室のリスクや家賃滞納のリスクを避けられるのでメリットがありますね。
契約期間は30年~35年が一般的だと思います。
これが業者が説明する『アパート一括借り上げ』のシステムです。
オーナーになるとメリットだらけのように感じますね。
でも、誰でも上手くいくとは限りません。色々デメリットもあるからです。
お金の流れ
このシステムはオーナー、業者、入居者がお金のやり取りをする訳ですが、その流れを説明したいと思います。
アパート建設
オーナー⇒業者へお金が流れます。
このシステムはアパートを借り上げる業者にアパート建設を委託します。
価格は高いです。
オーナーが自分でアパートを用意することは出来ません。
必ず借り上げする業者に建設してもらうからです。
他社と価格を競わせて、建築価格を下げることは出来ません。
ちなみに私達が提案を受けたのは、建設費用1億円、値引き1000万円で9000万円でした。
まぁ、私には適正な価格は知りませんので、厳密に高いか安いか判りません。
しかし、先程書いた理由から、高い可能性があっても安くなる理由はありません。
・アパート建築で、業者は大きな利益をあげます。
・逆にオーナーは多額の初期費用がかかることになります。
市場
入居者⇒業者へお金が流れます。
管理を業者に委託しますので、家賃の管理なども業者が行います。
家賃保証
業者⇒オーナーへお金が流れます。
これは契約時に決めた額となります。
ただ注意が必要なのは35年契約と言っても、35年間同じ家賃設定ではありません。
最初の10年は固定で、以後5年毎に家賃見直し(更新)があります。
更新後の家賃は、入居実績やアパート周辺の環境(ライバルの有無)が主な判断材料になります。
あと、以外に知られていない項目としては『免責期間』があります。
これは、新築から3ヶ月は家賃保証がない期間のことで、この間はいくら満室でもオーナーに賃料は支払われません。
新築以外にも、入居者が入れ替わる場合も免責期間の設定があったりします。
あとは、家賃保証と言っても満額支払われる訳でなく、管理手数料として10%~15%は差し引かれます。
・オーナーが受け取る家賃は最初の10年は固定。
その後は5年毎に見直し。
・免責期間により、オーナーが受け取る賃料は低下する。
・管理手数料により、オーナーが受け取る賃料は低下する。
このシステムの問題点
このシステムのメリットとして、オーナーはアパートを建てるだけで、後は業者が運営するので楽ですよ、と言われます。
でも私は逆だと思っています。
運営する業者は最初にアパート建築で利益をあげています。
では、35年契約のアパート運営が上手くいかなかったらどうなるでしょうか?
答えは『痛くも痒くもない』です。
最初の10年はオーナーに家賃保証しなくはいけませんので、その点は業者がリスクを抱えていると言えます。
しかし、新築物件における最初の10年はそれなりの入居者を見込めますので、それほど高いリスクではありません。
10年目以降は実績に応じて賃料を下げれば、リスクを回避できます。
オーナーは逆の立場です。
最初にアパート建築と言う多額の費用をかけていますので、この時点で大きなリスクを抱えています。
家賃保証が確定しているのは最初の10年だけで、以後の収入は不確定です。
10年目以降に賃料が想定より下がると、初期投資の回収が送れることになります。
対照的に運営する業者は、運営が上手くいかなくても賃料を下げることでリスクを回避できます。
もちろん、賃料を下げることは業者の自由には出来ません。
あくまでオーナーとの契約ですからオーナーがOKしなければ成立しないのです。
ですが、家賃設定に揉めたら業者が有利なのは明らかですよね。
オーナー自身がアパート経営できれば問題ありませんが、そのつもりが無いから一括借り上げの契約をした訳ですから。
また、他の業者に運用してもらう方法もありますが、家賃設定で揉めるような物件は簡単には契約はまとまらないことは目に見えています。
足元も見られるでしょうし。
結局、リスクが高くなってきた物件でも業者はリスクを回避しやすいのに対し、オーナーはリスクを回避し辛いシステムなんです。
もう一点問題点があります。
本来、アパート経営で利益を出すには、市場のニーズにあった物件を提供することが必要です。
それは立地、部屋の快適性から適正な家賃設定をしなければなりません。
アパートは築年数が増えれば魅力は下がっていきます。さらに有利な立地でもライバルとなるアパートが建つ場合も十分ありうります。
でも、オーナーは基本的に経営を丸投げで、家賃保証として業者からお金を受け取るので、市場の動向とは関係なく『家賃を下げたくない』と考えます。
対する業者は、家賃保証しなくてはいけないので、家賃を下げたがります。
表面上はビジネスパートナーですが、見ている方向が違うシステムなんですよね。私はこの点も問題があると思っています。
・業者は経営が上手くいかなくても家賃を下げればリスク回避できる。
・オーナーは家賃が下がると建設費を回収する時間が増えリスクが高くなる。
うたい文句には注意
業者は新たにオーナーになって欲しいと、色々甘いことを言ってきます。
例えば、こんな風に。
でも、地元の不動産業者に伺うと違う答えが返ってきました。
『今はアパート供給過剰だ』と。
この辺も業者の情報を鵜呑みにしないことが大切だと思います。
このとき聞いた家賃下落データには驚きました。
10年目以降も高い家賃を維持しているんです。
でも、全国的には内閣府発表のデータとかなり開きがあります。
もちろん地域によるのでしょうが、築20年、30年の物件が高い家賃を維持する方が珍しいことは明らかです。
結局、業者は『弊社調査なので・・・』と言うだけですので、注意が必要ですね。
メリットとなる人
このシステムは必ず失敗する訳でありません。
特定の人によってはメリットになるでしょう。
例えば複数物件を所有しており、薄利でも管理を丸投げしたい人などは良いかもしれません。
あとは相続税対策して有効な面も持っていますので、きちんと計算した上でメリットになる人はいるかもしれません。
ただ、相続税対策としては効果が時間とともに薄れてきますので、個人的には微妙だと思っています。
アパート新築時には最大の効果が得られますが、運営が進んでキャッシュを回収するに従い、相続対策としては効果が薄れてきます。
最後に
アパート事業はそれほど儲かりません。
キャッシュフローを作成するとよく分かります。
ただでさえ儲かり辛いアパート事業において、高い初期費用がかかり、家賃保証から免責期間分と管理手数料を引かれて薄利になる収入を考えると、私にはこのシステムは受け入れられませんでした。
リスク管理の観点からも、オーナーはリスク管理が難しいです。損切りし辛いですからね。
運用が上手くいかなくなり、もうアパート事業を止めようと思っても手放すことは難しいと思います。
誰かにアパートを売るとしても、叩き売りになることは必死です。
これらを考慮してもメリットになる人ならやってみても良いと思いますが、何も考えず、業者から35年間決まったお金を貰えると思ったら大間違いです。
アパート事業に関わらず、投資信託や株、FXもそうかもしれませんが、利益が上がるシステムを理解せずに、人から言われた甘い言葉に乗ってしまうことは、失敗しても当然です。
投資はどんな理由だろうが『自己責任』ですので、内容を理解せず失敗しても誰も助けてくれません。
後から泣き言を言っても遅いのです。